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スキートップ | 2シーズン目 | 急斜面 | 親子ツアー | 帰国後 |
私が若い頃は若者の間でスキーが大はやりだったが私はやらなかった。 週末の上野発の夜行列車にたまたま乗り合わせると、スキー板と大きなリュックを背負ったいわゆるカニ族の横行に迷惑したものだ。 実はスキーをやったことが19歳の時に一度だけある。土曜日、会社が終わってから夜行バスに乗って延々と走ったあげく、 明け方着いて短い仮眠だけしてスキー場へ。道具を借りて着けては見たが滑るはおろか、立つことすらできずに1日が終わり、 夕方には帰りのバスに押し込まれ、夜中走って明けた月曜日には出勤という苦い経験に懲りたからである。 以来、スキーは私には無縁のものと思って過ごしてきた。 50歳の時、思いがけず米国コロラド州のボルダーに駐在した。同僚の日本人駐在員はそれほどでもなかったが、 日本から来る出張者たちはそろってスキー好きが多く、週末には大挙して出かけて行った。 出張者の一人E氏が、こんなスキーの聖地みたいなところに2年もいて、一度もスキーをやらずに帰国するなんてもったいない、 きっと後悔しますよ。今は道具が進歩して昔より格段に滑りやすくなってます、一度私と一緒に行ってみませんかと誘ってくれた。 そして実質的には50歳にして初めてのスキーヤーである私を連れて行ってくれたのが何とあの有名なVailスキー場である。 着くとすぐ、彼らは私を初心者用ゲレンデに置き去りにして、じゃあ、ランチの時にレストランで、と言い残して行ってしまった。 おそるおそる道具をつけてスロープに斜めに立ってみると、スルスルとひとりでに滑り出す。 確かに、コロラドでの初滑りは、 30年前に比べて「Much better 」 だった。 |
先ず、立ってもすぐには転ばない。足首がブーツでしっかりと固定されたため、曲がり易い関節の数が減った。 30年前は膝に加えてくるぶしの二方向、合計三つあった自由度が膝だけに絞られた事による。 「余計な自由度を減らせ」 は制御を簡単にするための第一歩である。道具屋さんは鉄則に従ったわけだ。 次がブーツの脛当て部分。ここがまた重要な役割を果たしている。 「前傾姿勢をとれ」とは30年前から変わらぬ真実らしいが、 「どのくらい?」 がわからなかった。 前傾すればつんのめりそうになり、慌てて腰を引いて尻餅をつく、というのが 「立てば転ぶ」 の一番多いパターンだった。 今はブーツが教えてくれる。ちょうどいい具合にしか立てないように固定されている。斜面の途中に立てば自動的に滑りだす。 滑りだすとただ立っているのと同じというわけにはいかず転ぶ。 だが 、板だけがどんどん滑って斜面の下まで行ってしまうということは起こらない。板にストッパーがついていて、 せいぜい数メーターの所で止まるように改良されている。ただし、起き上がるのは容易ではない。 道具は滑るために作ってあり、起き上がりやすくという少数派向けの改良はされなかったようだ。 体は残念ながら、19才の時と同様の柔軟度というわけにはいかない。転んで起き上がろうともがいていると、近くにいる人が助けてくれる。 こういう時のアメリカ人は実に人懐こくて親切だ。おかげで間もなく自力で立てる様にはなった。 超緩斜面でそろそろと滑ってみる。ここでは脛当てが単なるガイドとしてではなく、前傾度センサーとして働く。 良いセンサーもまた良い制御に必須のものである。適度な圧力で脛が脛当てを押している感じを保てば何とか滑っていく。 斜面に限りがある以上、動きだしたものは止めなければならない。 スキーをハの字にして膝を絞れ。30年前に言われた事を思い出して、何とか超緩斜面なら止まる。 次は曲がらなければならない。 「曲がろうとする外側の脚に重心を移せ」 これも30年前に言われたのだが、 どうもエンジニアのアタマになじまない。それは逆ではないか、そんな事をすれば遠心力でたちまち外へ倒れるに決まっている、 とアタマが囁く。だが、やってみると昔はあんなに苦労しても出来なかったのに、ちゃんと曲がる。 ここでも道具の改良が役立つている。前には、足首の余分な自由度が災いして、スキーの外側エッヂが立ったりして 外側に倒れる事があったのだ。すると、エンジニアのアタマが 「見ろ、やっぱり遠心力でとばされた」 などと言いだして 混乱の度を深めたものだが、今回はそれがないから、何とか曲がれる。立って、進んで、曲がって、止まる。 30年前に比べれば天と地の開きだ。大喜びで超緩斜面でこれを繰り返しているうちに、一日目の3 時間程があっけなく終わった。 |
これに気を良くして5週連続で、それぞれ違うスキー場へ通い詰めた。連れて行ってくれる人がいないときは、ベイルは遠すぎるから、 カッパーマウンテンとかエルドラなど、もっと近場のスキー場へ一人で出かけて、ヘタだがとにかく滑った。 そんなとき、帰りの道路の下り坂を下っていて、『あーっ、ここは曲がれない!どうしよう。そうだ!今はスキーではなく 車に乗っているんだった。』と、胸をなでおろすような場面もああった。 とにかく熱中してスキー場にかよっているうちに、あっという間に私のスキー1シーズン目が終わってしまった。 |